定年退職をまだしていない夫との熟年離婚

1. はじめに

定年退職をまだしていない夫と熟年離婚する場合、夫が将来もらうことになるであろう退職金の一部を財産分与として支払ってもらえるのでしょうか。

退職金は、夫の長期の勤労の成果であり、給料の後払い的な性格を持つものです。

妻は、長年に渡り、家事や育児で家庭内から夫の仕事を支え、退職金という財産の形成に貢献しているのですから、退職金の一部をもらうことは当然といえないのでしょうか。

今回は、まだ定年退職していない夫との熟年離婚に関して、財産分与において将来の退職金の分与の請求について解説します。

2. そもそも定年退職後に離婚したとき退職金は財産分与の対象になるの?

定年退職により、退職金を既に受領している場合には、退職金は、原則として財産分与の対象になるとされています。

但し、定年退職から離婚まで相当程度時間が経過している場合には、その期間において夫婦生活のために使われた退職金は、既に財産として存在していないため、財産分与の対象にはなりません。

3. 将来の退職金は財産分与の対象になるの?

離婚の時点において、まだ定年退職していない場合には、退職金は将来受領する見込みのある財産です。

ポイントは、離婚する時点では、将来の退職金の受領はあくまでも可能性に過ぎないことです。

仮に、離婚時において、退職金を財産分与の対象にしたにもかかわらず、実際には会社の倒産等の都合により、退職金を受領できなければ、夫は不満を持つでしょう。

そこで、実務では、将来の退職金の支給の確実性の程度を検討して決めており、離婚する時点において、定年まで10年以内であれば、財産分与の対象となることが多いです。

もちろん、公務員のように定年まで勤務する可能性の高い職種については、定年まで10年を超えるときでも財産分与の対象とされることもあります。 また、財産分与の対象とは直接認められなくても、他の財産の財産分与を決める際に、扶養的財産分与等の考慮要素とされる場合もあります。

4. どのように財産分与の対象になる退職金の額を決めるの?

4-1. 離婚時の退職金VS定年退職時の退職金

財産分与の対象になる退職金の額を決めるとき、①離婚時に自己都合退職した場合の退職金の額を基準にする場合②将来の定年退職時に支給される退職金の額を基準にする場合の2つの選択肢があります。

定年退職までの期間が短い場合には、将来の定年退職時に支給される退職金の額を基準とする場合が多く、定年退職までの期間が長い場合には、離婚時に自己都合退職した場合の退職金の額を基準にする場合が多いです。

もっとも、どちらの計算方法がとられるかについては、判断基準が明確にあるわけではなく、具体的事案に応じて判断されます。

4-2. 婚姻前の夫の労働により得られた部分の退職金は対象外!

まず、将来支給される退職金のうち、婚姻前の夫の労働により得られた部分は、財産分与の対象になりません。

たとえば、就職後5年目で30歳のときに結婚した、夫の60歳定年時の退職金が、1400万円である場合、財産分与の対象になる退職金の1つの算定式は、結婚後の期間に対応する1400万円×30/35=1200万円となります。

もちろん、単純に1年の勤務に比例して退職金は増額するとは限らないため、実際には、退職金規程等を参照して、退職金の算定式を考慮し、財産分与の対象になる退職金の額を決めることもあります。

4-3. 妻の貢献の程度は原則1/2

次に、妻の貢献の程度については、夫婦平等の理念に基づき原則1/2とされます(これを「1/2ルールと呼びます。)。

但し、この1/2ルールは、医師などの個人の能力と努力により遂行される職種である場合などで当事者の公平を図るために、修正されることがあります。

5. 退職金を財産分与として給付する場合の支払時期はいつになるの?

結婚後に就職した夫の定年退職時の退職金2000万円のうち、2000万円×1/2=1000万円を財産分与することになったケースにおいて、夫は1000万円をいつ払えばよいのでしょうか。

実際に退職金を受領するのは、定年退職したときですから、夫が、離婚時に、1000万円もの大金を払えるとは、限りません。

そこで、実務では、他の財産分与とは区別して、退職金の財産分与については、支払時期を将来退職金が支給された時とする場合が多いです。

もっとも、離婚時において、夫の支払能力に問題がない場合には、離婚時の支払いが認めれられるケースもあります。